- 親子イビキ物語。子はとんかつ。父はふらふら。 part1
-
みみはなこは今日も元気です
10年以上前に働いていた病院の検査技師の清田さんがひょっこりみみはなこ医院にやってこられました。
清田さんはあたしのイビキ患者さんでもありました。
近くまで来たもので。センセの顔見に来ましてん。
清田さん!お久しぶり。その後イビキいかが?
バッチリですよ。
息子さんももう中学生?
いや、高2ですよ。
こんな再会は大歓迎です。
この清田さん、実は、でっかい扁桃腺が原因で大イビキかいてたのですが、
思い起こせば泣き笑いの手術物語でした。
また扁桃腺腫れました!といっては、耳鼻咽喉科の常連だった清田さん。
ある日、子供連れでやってきました。
今日は私やないんです、息子ですねん。熱しょっちゅう出しますねん。いつも、近くの小児科でみてもらってましたけど、扁桃腺は耳鼻科でみてもらったほうがいいかと思って。
清田さんの坊っちゃん、ゆうすけくんは幼稚園の年長さん。あともうすこしで卒園という時期でした。
もう何度もこんな目に会ってます。扁桃腺きったほうがいいんとちがいますか?
診ると扁桃腺はまっ赤!腫れてより大きくなっているようにみえるものの扁桃腺そのものが大きくノドのスペースがゼロに近い。一体どこを通ってご飯が食道にたどり着くのかと思われる狭さです。
この子、ご飯食べるのおそいことないですかあ?
そうなんです。むっちゃおそいんです。
それにイビキかきませんかあ?
え?なんでわかるんですか!
大人顔負けの大イビキなんです。
すると、横で奥さんが、
あなたのイビキには負けるわ。と。
でしよ?
清田さん、あなたが熱だして、腫れた腫れた点滴して!と大騒ぎしてたとき、あたし、イビキかきませんかってたずねたじゃあないですか?
そしたら、そんなもんは知らん、とにかく
痛い!って.....ここで点滴しながら大イビキかいてましたよ。
つづく - 親子イビキ物語。子はとんかつ。父はふらふら。 part2
-
みみはなこは今日も元気です
今日も通勤快読。iPhoneのアプリ電子書籍もインストールしてますが、やはり、あたしは紙の本。
明日、この紙の書物を巡ってのシンポジウムが大阪芸大主催であります。
書物の未来。紙の本が生き残れるか。
大阪国際会議場。
あたしはなんとかチケット手に入れましたが、かなりの人気で定員オーバーとか。無料。
総合司会は以前にもこのブログで紹介したことのある、長谷川郁夫さん。
シンポジストに元指導教官、山縣煕先生。作家の角田光代さんの講演もあります。楽しみです。
また、聴講後報告書きます。
さて、清田さん。
清田さんはだんだん自分の形勢が悪くなると静かになり、奥さんが、話を進め始めました。
この子、4月から一年生になりますので、その前に切ってください!
あら、気が早い。
お母さん、ちょっと待ってください。
まず、今の炎症を治してからね。
もし大イビキかいてるなら、そのとき、息がとまってることありませんか?
あ、あります!ときどき、顔も白くなってる。
胸か、首の根元のあたりが凹んでませんか?
鎖骨の間がへっこんでます。
横で清田さんが、へえーって顔して、
オレは?
と奥さんにたずねます。
あなたの顔色なんかいちいち見てないわ!
息は止まってるわよ。その間静かでいいけど。
ヒドイ。
清田さんも重症です。
つづく - 親子イビキ物語。子はとんかつ。父はふらふら。 part3
-
みみはなこは今日も元気です
白石一文の「永遠のとなり」という小説に主人公が次のようなことを言う場面があります。
「夫婦でも恋人同士でも、片方が死んでしまったときに、残されたもつ一人が取り返しのつかないようなダメージを受けてしまう関係というのは絶対間違ってるって。そういう人間関係はやり過ぎなんだって」 この人の小説には、とぎどきあたしの頭をツボ押しのように刺激する言葉が出てきます。
この人が、直木賞?なのは、親子2代直木賞の話題性を狙ったからか。ちょっと別の賞のような気がしますが..
しかし、彼の小説はあたしにとってはハズレもあるのでなんともいえません。(「僕のなかの壊れていない部分」はハズレ)
この主人公はすでにその間違った関係を経験したか、しているかなんでしょう。
だからこんな希望のないこと言ってもちょっと救われる。
でも、傷つくのがこわいから、いつも、2、3歩下がった関係しか築かない、築けないというのもわかる気がします。
これが親子なら、距離や関係の選択 なんてないですね。
さて清田さん親子です。
奥さんが突然主導権をにぎり、
「センセ、いいこと思いつきました!二人まとめて同じ日に手術してください!」
清田さん
「・・・・・」
え、なんで急にこんな話に?
「おい、ちょっと待ってくれ!なんでオレまで?」
清田さんはあたふたしています
「だって、付き添いのこともあるし、私の手間がはぶけるでしょ!」
そうかあ!それもありか!
この手術、入院は5日から7日。とくに付き添いも要りませんが、さすがに小さいお子さんにはお母さんが、付き添っていることもあります。
寝泊まりするまでもない場合もあります。
「でも奥さん、ご主人には付き添いなんて要りませんし、入院して帰られるまで、一度も奥さんが見えなかった人もおられますから、大丈夫ですよ」
とみみはなこは言葉を添えました。
すると、
「いえいえ、同じ日に手術してもらうと、あたしが付き添わなくっても、パパが隣でみられるじゃあないですか!」
清田さんとあたし
「・・・・・・」
つづく - 親子イビキ物語。子はとんかつ。父はふらふら。 最終章
-
みみはなこは今日も元気です
暑さ寒さも彼岸まで
しかし今朝の墓参りは寒かった。
墓は飛鳥川の堤防の下にあり、
その堤防は桜の並木道となっている。
梶井基次郎曰く
「桜の樹の下には」屍体が埋まっている。これは信じていいことなんだよ。
坂口安吾曰く
「桜の森の満開の下」・・・だんだん歩くうちに気が変になり、前も後も右も左も、どっちを見ても上にかぶさる花ばかり、森の真ん中に近づくと恐ろしさに盲滅法たまらまくなるのでした。
墓の堤防の桜はこの世のものと思えぬ美しさです。
今年も満開まであと数日。
清田さん親子の手術の日がやってきました。
子どもが先、父さんはあと。
子どものゆうすけくんの扁桃腺は大きいとはいえ癒着がなくアデノイドを切除しても、15分ほどで手術終了です。
問題はお父さん。
お父さんの清田さんの扁桃腺は、長年の炎症の繰り返しによってガチガチに癒着し取りにくく、止血も厄介でした。さらに、ノドちんこを切り取り咽頭を形成するのです。
それでも、1時間もかからず手術は無事終了。
さて翌朝。病室に二人をのぞきにいったみみはなこが目にしたものは、
モグラのように布団にくるまってうなっている父、清田さんと、
その横のベッドにちょこんとすわって朝ごはんを平らげ、
なんと、とんかつを食べたいとお母さんにねだっているゆうすけくんでした。
退院の日、ゆうすけくんは、その足でデパートでおもちゃを買いに行く約束をしていると大はしゃぎです。
一方清田さんは、入院中、おもゆぐらいしか口にできなかったそうで、3キロ減。
「もうちょっと入院させてくださいよー。仕事のほうはさっき検査部に行ってたのんできましたから。」
すると奥さん、
「そうねえ。あと1日だけ延期してもらって。5日目からおりる保険だし。それ以上になると、費用が高くつくから、明日かえってらっしゃいねっ」
かわいそうな、清田さんでした。
それでも、イビキはなくなり、スマートになり、一石二鳥です。
おしまい