短編集
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パーマ屋さんにややこが生まれ… part1
みみはなこは今日も元気です
みみはなこはぶらりとこの町にやって来て開業して以来、なんと一度もパーマ屋さんを変えたことはありません。パーマ屋さん?美容院のことですがな!
今日からそのパーマ屋さんのオーナー(正確にはオーナーの息子さん)の物語がはじまります。
さてさて…

「もうじき、ややこが産まれますねん。」
酒本さん(仮名)は言いました。
は?ややこ?
この人いくつやの?みみはなこは、カルテの表紙を見なおしました。昭和◯◯年生まれ。あたしよりむちゃむちゃ若いやん。
うちの死んだおばあちゃんが赤ちゃんのこと、ややこていうてたわ。でも、うちの母でさえ、日常的にはややこなんて言わないです。初めての赤ちゃんをややこっていう酒本さんに、みみはなこは、妙に親近感をもったのでした。
すると向こうも、なにかを感じてくれたのか、酒本さんは親しげに話しはじめました。
「せんせ、うちパーマ屋ですねん。すぐそこでやってます。またきてください。」
みみはなこはぶらりとやってきたこの町で開業したもんだから、そのころ、この町のことまだなんにも知らなかった。
「酒本さん美容師さんなんですか?」とてもそうは見えない。
「一応免許は持ってます」
え?一応?こんな人に切ってもらったらザンバラにされるかも⁈
「僕美容師の息子ですねん。ここに2店舗め開きまして」
「じゃあ経営者さんですね。」
「まあ、一応。せんせ、来てくれはったらうちの一番上手なのにさせますから。」
「酒本さんは切らないのですかぁ?」
「僕切ったらザンバラになりますわ」
やっぱりサンバラ‥

つづく
パーマ屋さんにややこが生まれ… part2
みはなこは今日も元気です
あたしはパーマはかけてませんけど、パーマ屋さんて昭和のひびきですね。今回登場の酒本さん(仮名)はただのパーマ屋さんではありません。
ご自分で、僕が切ったらザンバラやとおっしゃる酒本さん、けっしてみみはなこのところにパーマ屋勧誘にこられたわけではありません。
part2はじまりです。

これが、みみはなこと酒本氏の出会いでした。
ところでこの酒本さんは、みみはなこのところへ、なんでやって来たのかって⁈
そうでした。
酒本さんは、ノドが腫れてひどく痛む、しかも年に何度も繰り返す、と訴えてやってきたのでした。つまり扁桃炎です。
そんなに何度も腫れるなら、切っちゃえば?なんて、言ったものだから、酒本さん、もうじきややこが産まれるから、手術なんてするひまない!とおっしゃったのでした。
「ところで酒本さん、よけいなお世話かも知れませんけど、イビキかきません?」

つづく
パーマ屋さんにややこが生まれ… part3
みみはなこは今日も元気です
三隣亡(さんりんぼう)って古い言葉をおもいだしたのは、先々週のアゴからアスファルトダイブに続き、先週末に専門医講習会で出かけた仙台で、到着後すぐにパクついたお寿司で大当たりし、さて、今週は…3つ目の不吉が頭によぎったからです。
こういう時こそ引きしめてかからないと、本当に3つ目がおきてはならぬ。今日は、仕事終了したら東京に講演会。インフルエンザの新しい知見を仕入れてきます。
ところで三隣亡って、続いて3つ災難がふりかかることとまぬけなみみはなこが信じこんでたような意味じゃあ本来はないのね。さっき辞書調べると建築始めると火災が起こり近隣3軒を焼き滅ぼすおそろしい日のこと、なんだって!
そんなマイナスなことは考えず、今日もしまっていきましょう!

さて酒本さんの反応は?
「せんせ!あたりっ!なんでわかりますのん?」
「そら、あたしにはわかりますねん。酒本さんのノドの形と、その立派な体格見たら」
「イビキてなおりますの?」
「酒本さん、息止まってません?」
「息?イビキは止まるらしいです。その後ガオ~ってやかましいらしいです。」
「それって息してないですねん。無呼吸いいます。」
「ええっ!息とまってますの?死にますやん!」
「死なへんですって、そんな簡単に。でも一度検査しましょう。」

つづく
パーマ屋さんにややこが生まれ… part4
みみはなこは今日も元気です
独特なものが、自分の心にひたひたとしみ込み、人生の節に当っては何度も読み返した、「ノルウェイの森」
しかし、それ以降はあたしには、あくまであたしひとりにとってですが、裸の王様?としか思えない作品もあり、それでも、次こそはと密かな期待を抱きながら、全て発売と同時に読んできました村上春樹ですが、いまやコンテンポラリーな話題ではない1Q84はあたしには時間をおいて再読するだろうなと思われる独特さ加減を残してくれました。11月25日に過去の短編小説、とくに海外て先行発売された短編小説が集められた「めくらやなぎと眠る女」が出まして、昨日新幹線の時間を愉しませてくれました。

酒本さんのつづきであります。

酒本さんは、扁桃炎が治ってから再び検査に来られました。
例によって無呼吸指数は高く血中酸素飽和度も最低値は60%と、ひどい数値でした。
結果を聞きに酒本さんは、にこやかに来られました。
「せんせ、ややこ生まれましてん!」
「おお!それはおめでとうございます。男の子?女の子?」
「お姫さまですわ!僕によう似てますねん」
と話してると肝心結果を伝えるそびれてはいけません。

つづく
パーマ屋さんにややこが生まれ… 最終章
みみはなこは今日も元気です
今日から12月!師走です!
師匠が走るほど忙しい?
師匠で思い出しました。あたしの文学部時代の師匠のお仲間で今大阪芸大の教授されてる長谷川郁夫先生が新しくご本を書き上げられて贈ってくださいました。「堀口大学」(河出書房新社)という本です。なんだかむずかしそう。しかし長谷川先生のご本は他のも(「藝文往来」平凡社)あたしのような素人にも読みやすいので、詩人評伝読んでみますか。

ところで酒本さん、結果なんですけどぉ、たいへん重症の無呼吸なんです。」
「へっ?ど、ど、どうしましょ!」
上機嫌だった酒本さんのおしゃれなメッシュの髪がさかだったように思われました。
メッシュに染めた髪は、スーツ着た酒本さんにはチグハグに見えたし、本人も自覚しているのか、うちの若い子の実験台ですわと言っていました。
いつものように、みみはなこは、いつものセリフをスラスラと並べました。指を折りながら。
「酒本さん、治療には4つあります。まずは、ダイエット、もうひとつは手術、それからCPAPという呼吸器、4つめはマウスピースです。酒本さんにはこのうち3つも選択肢があります。
よかったですね。」
「ええことありませんわ!
せんせ、ややこ生まれましたから、手術なんてあきませんて。」
そうかそうか、扁桃炎の時もややこ生まれるからあかんついうてはったな。
酒本さんの身長は185cm体重は98キロ。まずはダイエットです。
「あ、せんせ、僕痛風ありますねんけど、なんか関係ありますの?」
「そら、食生活から改善しないと、あきません」
「あ、脂肪肝て言われたこともあります。」
「酒本さん、酒本さんの体は
その体格から想像できるあらゆる病気をお持ちのようです。ややこも生まれたことやし、まず体あってのですから」

パーマ屋さんのややこはもう10歳!
今日もマーキュリー&ボウイ とともに通勤ブログです。マーキュリーはもちろんフレディー。ボウイはデヴイッド!
フレディーも今ならエイズと共存しながら歌えたでしょうに。
ボウイは2004年大阪城ホールでの感激コンサート以来、元気にしてるかしら?

酒本さんとみみはなこの10年!
あれから、足かけ10年。
酒本さんは、CPAPを使い続けています。
そして、みみはなこは一度も美容師さんを変えたことありません。酒本さんちの、筆頭番頭さん。

あの時生まれたややこが、琴ちゃんで、いま4年生です。
琴ちゃんにはてっちゃんという弟も生まれ、酒本ファミリーは、順風満帆。
あたしは、ここをなんとかするのに必死でしたが、酒本さんは、この10年で、店舗数を5つに増やされました。アッパレ!脱帽!
(CPAP万歳!)

おしまい