短編集
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掃除機の反対?!原一平のCPAP物語 part1
みみはなこは今日も元気です
睡眠時無呼吸をサポートする器具として、みみなはこが九九を読むように説明しているCPAPについて、主人公、原一平(ハライッペー)が解説してくれるはず。

関西オーツーは酸素や在宅人工呼吸器を扱う小さな会社です。大阪を中心に、病院からの依頼を受けて、在宅で酸素吸入をする患者さんや人工呼吸器を使う患者さんの家々を訪問しています。
原一平がMP関西に職を得たのは24歳の時でした。その後勤続11年、一平は自分でも長く続いたと思っています。今では社長も専務も後輩までもが、イッペーと彼を呼びます。
地元の高校を卒業した一平はトラベル専門学校に行きました。他の職種より給料がいいと友達に聞いたからです。しかし旅行というものに何の興味も持てず、卒業しても、在学中からのアルバイト先である運送会社でそのままアルバイトを続けていました。アルバイトの契約が3月で切れるその年の正月、引っ越しを依頼してきた会社に出向いたとき、そこの専務に声をかけられたのです。「うちの会社で働かないか。」

つづく
掃除機の反対?!原一平のCPAP物語 part2
みみはなこは今日も元気です
最近の学生さんは卒業を控えてもまだ就職が決まってない人が多いとか。厳しい時代です。
原一平が、就職したころは、いまほど氷河期ではありませんでした。選ばなければなんとかなった時代でした。しかし、誘われたら安易に乗る一平です。二つ返事で就職を決めたのでした。

そこが社員20人ちょっとの関西オーツーでした。関西オーツーはエリア拡大に力を入れようとしていたのです。
一平に小さなツキがあるとすればそれは彼のやや細長のえびす顔のおかげだと言えましょう。
会社は一平にとって居心地の良いところでしたが、最近導入された新型呼吸器のセールスにいくのは気が進まなかったのです。飛び込みのセールスが苦手だったわけではありません。むしろ人懐っこい性格と細長のえびす顔の一平には、初訪問初対面の壁は低かったと言えます。
しかし新型呼吸器を知らない医師が多すぎて門前払いがほとんどだったのです。ある医院では、「なんだねこれは?宗教のヘッドギアみたいじゃないか。」
と一蹴されました。奇しくも、ある宗教で頭にガブリものをしていた記憶がまだ残っていた時期だったからでしょう。
ある医院では、
「しーぱっぷ?そんなシップは要らない」
と言われました。

つづく
掃除機の反対?!原一平のCPAP物語 part3
みみはなこは今日も元気です

JRの駅の改札の上の壁に
突然
カニ道楽のカニのようなカニが張り付けられ
カニの足のひとつに駅名短冊がひもでぶら下げられてる!
今朝発見して、ちょっと古いけどトマソン?⁈
と思いました。
一体何が言いたいの?カニーッ!
そりゃあカニカニエクスプレスですよ!
とうちのスタッフ。フンそんなことぐらいわかってるぜ。でも、あれはないよ!
観てみて!

そんな全戦全敗が続いていたある日、一平は、ある町の駅前の二階にある耳鼻咽喉科に飛び込みました。
(あ、しまった!ここは耳鼻科かぁ。)
名詞を受付で手渡し、一応、
「先生にご面会をおねがいします」と、申し出ました。
みみはなこはその日、ベスト医療器の五木さんを、待っていました。五木さんはCPAPのスペシャリストで、みみはなこが睡眠時無呼吸患者さんにCPAPを処方するときにいつも来てくれるのです。
予約は10時です。時計をみると10時5分。いつも10分前には来て待っているはずの五木さんが、きょうは連絡もなく遅れています。
「センセ~、たいへんです!五木さんおそいから電話してみたら忘れてたって!」
えーっ!!患者さんは今日は遠くから見えて、すでに10分お待ちです。

つづく
掃除機の反対?!原一平のCPAP物語 part4
みみはなこは今日も元気です
いつもきっちり仕事をこなしている人でも、ときに、思わぬミスをしてしまうことがあります。
そのミスが命取りになることもあるのです。
すっぽかしてしまった五木さんは、この一回のミスで、人生が変わってしまうかも・・・・
なーんて・・・・ねっ。

さて続き
ちょっとまてよ?マリーっさっき来たなんとかっていう会社のなんとかっていう人、あれCPAPがどうのっていってたでしょ?

マリはうちの受付のおねいさんです。出勤前?って感じのおねいさん。実は堅実な家庭の主婦で、二児の母。威勢がよく、医療機関に不似合いの派手さがかえって心地よい。
「ああ、さっきの。ハライッパイですかあ?」
「それ!名詞おいてったよね?電話して!」

原一平は、駐車場で缶コーヒーを飲みながら、やっぱり飛び込む先を間違えたなと思っていました。しかし、こんなことは日常茶飯。どってことない、のです。受付で名詞を差し出したとき、妙に派手なねいちゃんが、今診察中で忙しいのでお待ちになりますか?なんてたずねるもんだから、はあ、とあいまいな返事しちゃって待つはめに。
玄関入って耳鼻科って気付いたときに、そーっと帰ればよかった。30分も待たされて、やっと出てきた
センセらしき人に、あ、うちは間に合ってますから。だって!
どうせ、CPAPなんて知らないだろから、説明する手間がはぶけたっ。と、思いながら缶コーヒーに口つけたとたん、携帯が鳴った。

つづく
掃除機の反対?!原一平のCPAP物語 part5
みみはなこは今日も元気です
今日は嵐のようです。
患者さんがずぶぬれになって来られました。
雨でも風でも病気は待ってくれません。しかし、小さな子供さんを連れて
来るのはたいへん!午後からは雨風が止みますように。

さあ、一仕事終えて、缶コーヒーを飲もうとした一平ですが。

とととっ!
携帯が。
はぁい。関西オーツーの原でえす。えっ?どちらさん?みみはなこ?はあ?…あっ、みみはなこジビインコウカさん?
えっ?いまからですか?えーっと(予定を調べるふりしても、どうせひまなんですが・・)
なんとかいけそうです。はい、まいりますっ。
センセーハライッパイが行けるって行ってます。そんな遠くに行ってるはずないから、10分ぐらいで来ますよ。
と、マリがささやく。
と、そこにもう、原一平は立っていたのです。だってそこの駐車場にいただけだもーん。
えびす顔の原一平は前からなじみがあるかのように、よく言えば
親しげに、言い方を変えればなれなれしく、仕事を始めました。

つづく
掃除機の反対?!原一平のCPAP物語 最終章
みみはなこは今日も元気です
最近の掃除機はブオーンとホースから吸い込むものでなく、円盤が部屋中を動き回るのが登場しています。実はこのルンバってお掃除ロボットを、先日買っちゃいました。無精者にはたいへん重宝です。それじやあ、ブオーンと吸い込む掃除機はいらないかって?やっぱり無かったら困るのです。隙間のほこりを吸い取りたいときには必要です。今回のタイトルの掃除機はブオーンと吸い込む掃除機のこと。
一平がやってきて…

「これがCPAPという器械です。先生にお聞きいただいてるように、呼吸を助けるものです。」
(ふんふん。なかなかちゃんとしゃべってるやん。)
「呼吸を助けるともうしますのは、患者さんの息が止まらないように空気を鼻から送りこむ仕組みです。つまりね、掃除機の反対。」
(は?掃除機の反対?そうかなるほど。)みみはなこも横でつい聞き入ってうなずいてしまいました。
患者さん「酸素吸入ですかあ?」
そこで、みみはなこが説明します。
「いやいやちがうんですよ。無呼吸の患者さんは気道でフタされて息が出来なくなってるだけです。肺が働き悪いのではありませんので、いつも、吸っている空気を送り込みさえすればいいのです。だから吸い込む
掃除機の反対です」
「掃除機の反対」
いただきました。

それが、関西オーツーとのつきあいのはじまりで、今日に至っています。
ところで、ベスト医療器の五木さんはどうなったの?
五木さんは、その後もみみはなことは仲良しです。でも、あの日のミスのおかげで、掃除機の反対と言った原一平に出番を減らされてしまったのも事実です。
しかし五木さんは、しばらくして、一平の会社が扱う掃除機の反対CPAPの外資系大手製造元に転職し、一平らと組んで仕事しています。今でも、あの日のことは語り種になっています。
人生どこでどうなるかわかりませんね。

おしまい