短編集
短編集 一覧へ戻る
イビキ隠してお見合い結婚 part1
みみはなこは今日も元気です
古風な女性です。これから仲人さんを通じてお見合いです。
でも彼女には大きな秘密が・・・・

山田美香(仮名)はニューオータニのロビーにいて、ソファーに浅く腰掛け、文庫本を読んでいました。いや、正確には読むふりをしていました。もっと正確には、読むふりをしようとしても、読んでないのがはっきりと分かるような視線の置き方をしていました。
約束の時刻にはまだ30分以上ありましたが、なんだかソワソワしてしまうのでした。
これで何度めになるでしょうか?慣れているといえば慣れている、こういう場面を演出するために、少女を装って鞄にはハイネの詩集ならぬ山田詠美の風味絶佳。
このごろでは、さすがに頻度はへり、前回のお見合いは8ヶ月も前でした。仲人業の奥さんもひとり亡くなり、ひとりは廃業同然の様子。だって仲人業なんていまやはやらないんですもの。
友達はみんな20代のうちに恋愛結婚してしまいました。成人式に両親が奮発してくれた振りそでは十分元をとったって感じです。しかし、いまやもうだあれも残っていません。振りそでもにあわなくなっちゃいましたし。

でも、今回は仲人さんもなんだか力が入っている感じ、しかもお相手は初婚。前回、前々回と再婚のおじさんがつづいたものですから、美香は心密かに期待してるのです。
さあ、ぼちぼち、本をしまって、お化粧直ししにいかなくっちゃ。

つづく
イビキ隠してお見合い結婚 part2
みみはなこは今日も元気です
最近は結婚しない人が増えているとか。
しても地獄、しなくても地獄なら一回はためしてみてはいかがかとは思いますが。
それも無責任な発言でして。
近い将来に息子が彼女連れてきて結婚したいなんて言い出すかも。そのときも、一回試してみたらなんてうそぶくだろうか⁈
みみはなこの信条は、自分や自分の家族やスタッフがこの病気になったらこの薬を飲むか、この治療を受けるかを自問し、Yesと言える治療を患者さんにするという、極極当たり前のことなんですが、 さて、さて、うちの息子の彼女が大イビキならどうするだろ?
息子の彼女なんてほっとけ!ですな。我が娘ならどうするかを自問すべきでした。うちには女の子がいないもんで、つい…

えーっと、お次の方は新患さん、問診票は…と。
山田美香さん(仮名)35歳、主訴はいびき。他にチェックなし。身長160cm体重48kg。
みみはなこは診察室に山田美香さんを呼び入れました。
と、同時に検査の予約確認。
「さっちゃああん、今日予約空いてるう?」
と叫んだものの、叫び終わる前に返事が。今日は一台空いてますっ。さっすが、うちのスタッフ!ツーカーです。(また古っ)
このごろ、うら若き女性のイビキ相談が多いのです。
そんな方がみえた時は、
いつものよく通る独特な声で、(あたしって耳鼻科向き!ってほど、耳の遠いお年寄りも「センセの声はよう聴こえてまんねん」っていってくれます。)
どうされました?イビキですか?なあんていいません。
声のトーンを落として、ひそひそひそ…
山田美香さんは、自ら話し始めた。

つづく
イビキ隠してお見合い結婚 part3
みみはなこは今日も元気です
忘年会の季節です。
土曜日はみみはなこクリニックも大忘年会でした。
お鍋を囲んで、スタッフも子供たちも楽しく過ごしました。
今年も元気で終われそうです。
こんな会では、ちょっと飲めたらいいなあ、といつも思います。
だって、飲んでる人達楽しそうですもの。
飲まなくっても楽しいですけど。

さて、山田さんが診察室で話し始めました。
「はじめまして。イビキのことでまいりました。前から家族にはやかましいって言われてたんですけど」
(あら?こんなべっぴんさんが?)
「山田さん、イビキの合間に息が止まってるって言われてませんか?」
さあ。イビキはとなりの部屋でも聞こえるって言われてるんですけど、一人ですから息が止まってるかどうかはわかりません」
「あそうですか。それでちょっと鼻とのどを見せてくださいね。簡単な検査もしますね」
と、説明をはじめたみみはなこの前で山田美香さんは、とても困った顔をしています。
「実は急ぐんです。結婚が急に決まりまして。」

つづく
イビキ隠してお見合い結婚 part4
みみはなこは今日
「青不動さま」が1000年ぶりにご開帳されているというので、京都は青蓮院まで行ってまいりました。
公開は昨日までとあって、長蛇の列。やっと門をくぐると、いくつかの部屋でまた長蛇の列。この時期に青蓮院にいくと、36不動さまのご朱印がいただけるらしく、みんなご朱印帳をもって並んでいるのです。世の中にこんな多くの不動信仰の方がいることに、びっくりしました。が、待てよ。これは、36寺に参る手間を省いてるだけ?御利益半減⁉
と思ってしまったのは朱印帳も持たないあたしだけでしょうか?
今日、青不動さまの話をしたら、あれはレプリカなんですってね。レプリカも古いものらしいですけど。って患者さんが⁈なんだか、ほんとに御利益半減気分になっちゃいました。
さて、山田さん、ご結婚が決まり…
「それはおめでとうございます。それじゃあお相手の方はどうおっしゃってるのですか?」
「は?まだ結婚してないので、なんとも…」
「は?」ん?
「ほほほっ。ですよねっ!」
今の時代にしては古典的なお答え。しかも、真顔で答えていらっしゃる。こちらがこんな質問をしたことが恥ずかしくなるような感さえあります。
今どき、イビキうるさいって彼氏にいわれちゃった!なんて、恥ずかしげもなく、おっしゃる二十歳ぐらいのお嬢さんが多数みえるもんだから、みみはなこもつい…
「イビキのことはまだ話してないのです。お盆までになんとかしたいのです。」
話を聞くと、式は10月、お盆の休みには九州の相手の方のご実家に挨拶に行くことになっているそうで、九州だからもちろん一泊するから、別の部屋を用意されても外に聞こえる、と、悩まれているのです。

つづく
イビキ隠してお見合い結婚 part5
みみはなこは今日も元気です
もうじき、有馬記念。
なにを唐突に?とお思いでしょうが、
みみはなこは実は
競馬場に行ったこともありますし馬券を買ったこともあります。
そのころ、担当だった薬品会社の人が、競馬好きで一度連れていってもらったのです。
で、有馬記念何買うかって?
いえ、残念ながらそんな話ではありません。
昨夜テレビで今年の最多勝を武豊と競い合っている内田騎手のドキュメントを見て、人間、努力に努力!ってまた感動
以前からしぶーい安勝さんや福永祐一さんが大好きでしたけど、内田さんにも注目。お馬の名前も知らないくせにね。
さて山田美香さんのつづき、どんな方が
お相手なんでしょうね。

山田美香は、今回のお見合いも半分諦め気分で臨みました。
ニューオータニのロビーにやってきたのは、スリムでおしゃれな男性。大学の研究室にいて、結婚する機会を逃してしまったというのです。
おお!この方こそ、長い間、待ち望んだ白馬の王子様!

時はすでに6月も末でした。みみはなこは、あとひと月半で、山田美香さんのイビキをなんとかしなくではいけません。しかし、そこはまず、きちんと検査。
「検査ったって心配要りません。いまからすぐできますからねっ」

つづく
イビキ隠してお見合い結婚 part6
みみはなこは今日も元気です
今年もあと1週間。年々時間が過ぎるのが早くなります。
でもなぜ?
あたしの一年もあなたの一年も生まれたての赤ちゃんの一年もみんな同じ一年のはずなんだけど。。
人は年をとると脳の記憶容量が減り、一年という時間に起きた出来事を、子供のころのように数々覚えていない。つまり、覚えているイベントの数が少ないので、一年も短く感じるんだって、いう説。
これを聞いた時みみはなこはなーーるほどってすごく納得したのですが、本当でしょうか?
なにしろこの情報源が長男なので・・・・・あやしいけど、お父さんの朝礼ネタ程度にはなるでしょ?!

山田さんには時間がない・・・・
検査結果は、中等度のつまり三段階に分けたら、真ん中の大きさの扁桃腺と、のどちんことそのまわりの粘膜が、イビキ振動の原因になっており、無呼吸指数も15(1時間に10秒以上の呼吸停止回数、20以上で重症)でした。
さてどうしたものか?
普段のみみはなこなら、かくかくしかじかといつものセリフを並べるところです。
しかし、時間がない。
ダイエットの必要もない。
重症の無呼吸までいかない。
考えられる方法は…

つづく
イビキ隠してお見合い結婚 最終章
みみはなこは今日も元気です
あばたもえくぼ。
いびきもなんとやら・・・

山田美香さん。スラリとした美人です。

どんな治療をするか??

山田さんはダイエットも必要ありません。
無呼吸もCPAPを使わなければならないほどではありません。
アゴのかたちだってしっかりしてるし、マウスピースを合わせてもノドの拡がりは期待できない。
手術。
しかし時間がありません。
7月の始めまでには予定を立てないと、キズの治る時間も考えると、お盆に間に合わせられない!
そして何よりも、手術すればイビキがゼロになるとはかぎらないことを山田さんは理解してくれるでしょうか。
*☆○#☆
いつもより長い時間をかけて説明したつもりでした。
すると、山田さんはさとった表情で、
「イビキが、全部なくならないかもしれないってことですよね?わかりました。お願いします!」
すべてを理解していただけたと思いました。
手術をあと、数日に控えたある日、山田さんは、40代半ばの紳士といっしょにみえました。
あ、この方が。
「婚約者なんです。いっしょに話を聞きたいと申しますので」
手術の説明を求められ、
☆*○$#
と話し終わるやいなや、
「ミカンちゃぁあん。ミカンちゃんのイビキなんてヒヨコがピヨピヨいってるぐらいのもんだよう。
ぼく気にならなかったもーん」
とミカンちゃん(?)に言うと、さっと向き直って
「先生、手術は中止してください」
「?」
(え?この前までイビキは内緒で治したいっていってたやんか!)
ミカンちゃんのイビキはヒヨコのさえずり?

おしまい